昔から日本に運ばれていたラックカイガラムシの染料
この日の丸のように見える赤い物は、昔画材屋や染料屋で売られていたえんじ綿です。江戸時代に、南蛮船がインドまたは東南アジアから運んできたもので、戦前まで普通に流通していたようです。日本画のえんじ色を描くには重要な天然の染料でした。また、加賀友禅の挿し色にはなくてはならない色でした。小さくちぎって絵皿に入れ、水またはぬるま湯を加えると色が出てきます。画用には、膠等のメディウムはいらず、加える場合でもほんの微量で十分です。濃く出して臙脂色。薄く出して青味のあるピンク。染めの場合は、布をあまりよく洗うと色落ちしますが、絵の場合は、18世紀のインド細密画を見る限り変色もなく安定していると思います。日本にはないこの独特なラックカイガラムシのえんじ色は、どんな他の色にも代えがたい魅力的で、貴重な色だったことでしょう。