前述の釜戸の母子の父親は、このカロです。彼はインドの工房の周りでちょっとしたハーレムを築いています。
誰に飼われているわけでもなく、工房の周辺で三匹のメス犬と悠々自適に生活をしているのです。
四つ目の犬は、インドでは閻魔の使いとか。それでもカロは、人に嫌われるようなことはせず、どこかわきまえているような気がします。
この積み上げられた稲ワラの上がお気に入りのようで、いつもここに登って辺りを見張っています。
その風格は、まるで王座にすわっているかのようです。
かと言って力を誇示するでもなく、他の犬にも優しく穏やかな奴です。テリトリーに侵入した雄犬を、低い唸り声をあげて追い払うことはあっても、喧嘩をしているのを見たことがありません。
ワラの上から下に降りると、雌犬や、子犬が、彼をみつけて喜んで 追いかけてくるのをよく見かけます。
ある日カロは、たくさんの鳥の内臓を吐き出し、人々に嫌がられました。気持ちの悪い奴だなと、思っていたら、そこに四五匹のチビ犬が駆け寄り、カロの吐いたものをガツガツと食べました。
その優しさには関心させられました。こいつは、菩薩ではないかと思いました。