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第17話『七匹のワニ』

ある町に七人兄弟の商人がいました。そしてその兄弟には、末に可愛い妹が一人いました。

ある日、七人兄弟は遠い国へ商いの旅に出かけました。七人は神や魔物の住む国まで行って、そこで七人の美しい女に出会い、それぞれみんな結婚して家に帰ってきました。ところが、この嫁たちというのが、じつはみんな性悪の魔物だったのです。

家に来ると、嫁たちはみんなして末の妹を邪魔者扱いし、つらく当たりました。兄たちは見るに見かねて、妹を遠くの村に嫁にやることにしました。妹は泣く泣く嫁いでいきましたが、兄たちの悲しみは月日がたっても薄れることはありませんでした。

ある日、兄弟たちが妹に会いに行こうとすると、嫁たちはそれに気づいて、それぞれの夫に呪文をかけ、昼のうちだけは魚の姿に変えておくようにしました。それでも兄弟たちはどうしても妹に会わずにはいられなくなって、ある日、魚の姿のまま川に入り、流れをたどって妹に会いに行くことにしました。

妹が河で沐浴をしていると、七匹の魚が寄ってきて、彼女のまわりをぐるぐる回り始めました。妹はその魚を七匹とも捕って籠に入れ、家に持って帰りました。そして、いざ切ろうとすると、突然魚たちが、

「切るな切るな妹よ。俺たちはお前の兄さんだよ」

と歌い始めました。

そして驚いている妹に、魚たちは自分たちがなぜ魚になったのか、その訳を全部聞かせてやりました。妹は涙を流して話を聞くと、七匹の魚を水がめに入れてしまっておきました。

ところがこれを見ていた姑が、

「どうして嫁は魚を切らないんだろう」

と言って、妹のいないうちに魚を切って、全部料理してしまいました。

帰ってきた妹はこれを知ってさめざめと泣きました。そして魚のうろこが捨ててあるところへ走っていきました。すると、そこには大きな蓮の花が七つ咲いていました。

妹がその蓮の花のわきに座って泣いていると、そこへ一人の年老いた行者が通りかかりました。行者は泣いている妹を見て訳をたずねました。妹が訳を話すと、行者は小さな水壺に呪文を唱え、それを妹に渡して言いました。

「この水を一息でその蓮の花全部に吹き掛けてやるのじゃ。そうすればその七つの蓮は、お前の兄さんの姿にもどるじゃろう。だが、必ず一息で吹き掛けるのじゃよ」

けれどもかわいそうに、妹は一息で七つの花にその水を吹き掛けることに失敗してしまいました。七つの花は、七匹の大きなワニの姿になって河の方へとはって行ってしまいました。妹は、その河岸に座ったまま、いつまでも泣いていたということです。

西ベンガル州・メディニプル県採話

再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子

– このお話について –

ベンガル地方では、一つの命が次々と形を変えて生まれ変わり、受け継がれていくというお話しが良く聞かれます。

西岡直樹

※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。

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第16話『一たばの髪と二たばの髪』

機織はたおりには二人の妻がありました。上の妻の髪はたった一たばね、けれど下の妻は二たばねもありました。機織は下の妻ばかり可愛がって、上の妻にはちっとも目をかけませんでした。

あるとき、亭主が留守のうちに二人の妻はケンカをしました。下の妻は、上の妻のーたばねしかなかった髪をつかんでみんな引抜いてしまいました。

上の妻は泣く泣く家を出て、森の道を歩いていました。すると、一本の綿の木がやぶの中に生えているのが目にとまりました。上の妻はこれを見て、綿の木のまわりにあったやぶ草を抜いてきれいにしてやりました。しばらく行くと、つる草にからまれたバナナの木がありました。これも上の妻はバナナの幹にからんだつる草を引きちぎってきれいにしてやりました。なおも行くと今度はトゥルシィー(カミメボウキというシソ科の神聖な植物)がやぶの中に生えていましたが、これも根元のやぶ草を残らず抜いて、きれいにしてやりました。

森の奥深くまで行くと、庵があって聖者が瞑想していました。上の妻は聖者のところへ行って、聖者のつま先に手を触れ、深々とおじぎをしてから、悲しい胸のうちを話しました。すると聖者は池の方を指さしてこう言いました。

「あそこの池でまず沐浴をしてくるがよい。一度だけ水にもぐるのじゃよ」

上の妻は池に行って、一度ざぶんと水にもぐりました。すると髪は両手にたばねきれないほどふさふさと伸び、顔も体も若返って見違えるほど美しくなりました。喜んで聖者のところへ行くと、聖者は庵の中にある竹かごを指さして言いました。

「あの竹かごの中から、好きなのを一つ持って帰るがよい」

上の妻は、大きいのは重たそうなので、一番小さいのをもらって帰りました。

帰り道、トゥルシィーの草は、「夫から愛されますように」と祝福の声をかけました。バナナの木は「これで扇げば、バナナの実や色々な果実がでてきますよ」と言って、大きな葉っぱを一枚くれました。綿の木は、これをゆすれば素敵な布がでてきますよ」と言って、綿のついた枝を一本くれました。

上の妻は喜んで家に帰り、かごのふたをあけてみました。すると、中には宝石がいっぱいつまっていました。

これを見た下の妻は、くやしいのをこらえて、上の妻から事の経緯を根掘り葉掘り聞きだすと、森の聖者のところへ出かけていきました。途中に何があろうと見向きもせずに行きました。

庵に着くと聖者は下の妻にも同じように、池へ行って一度だけもぐってくるように言いました。そこで、下の妻も池に行って一度もぐって見ました。すると、二たばあった髪はさらにふさふさになって、とてもきれいになりました。

これに気をよくした上の妻は、

「ようし、上の妻よりもっときれいになってやるんだわ」

こう言って、もう一度水にもぐってしまいました。すると残念、もとの姿にもどってしまいました。ブツブツ文句を言いながら庵へもどると、聖者は「欲張るからじゃよ」と言って、下の妻には何もやらずに追い返してしまいました。

数日して旅から帰った亭主は、上の妻が美しくなったのに驚き、籠の宝石のことを知ってこれまた大喜びをしました。そして今度は反対に上の妻の方を大切にするようになりました。下の妻はくやしさをこらえて、料理をしたり掃除をしたり、下働きをして暮らすよりほかなかったそうです。

西ベンガル州・チャッビス・バラガナ県採話

再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子

※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。

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第15話『捨てられた娘』

ある商人しょうにんに七人のむすめがありました。商人はある日、娘たちをよんできました。

「お前たちはだれのおかげでべているのかね」

「はいおとうさま、私たちはお父さまのおかげで食べています」

六人の娘たちは口をそろえて答えましたが、すえの娘だけは

「お父さま、私は自分の働きと運で食べています」

と答えました。これを聞いておこった商人は、

「それならお前は一人でやっていきなさい」

と言って、末の娘を森にてさせました。

末の娘といっしょに乳母うばがついて行きました。ふかい森の中で夕暮ゆうぐれれになり、どうしてよいかわからなくなって二人でいていると、そばにあった大きなバニヤンの木のみきが二つにひらいて、

「さあ、私の中に入りなさい。こわけものがお前たちをおそわないようにまもってあげよう」と言いました。

二人は中に入ってよるをすごしました。

あさになって二人が外に出てみると、木の外側そとがわにはトラやクマの生々なまなましいつめあとがありました。娘はいけそこからへなつちをとってきて、木のきず口にぬってやりました。すると木はよろこんで言いました。

「私にがなっていたら食べさせてあげるところだが、残念ざんねんながら私には実がならない。お前たちに良いことをおしえてあげよう。まちからアラレをってくるんだよ。そしてそれを半分はんぶん食べて、のこりの半分を池のほとりにまいておきなさい」

娘は木の言うとおりにしました。アラレを池のほとりにまいておくと、たくさんのクジャクがやってきてつつきあってそれを食べ、たくさんのはねとしていきました。

娘はそれをあつめてうちわを作り、乳母うばに町までりに行かせました。そのうちわはとてもよく売れました。そのお金でまたアラレを買い、半分を食べて残りをまたまいておきました。こうして娘はクジャクのうちわを売ってお金をためました。すっかりお金持かねもちになった娘は、そこに大きないえてました。

ある日、娘はたくさんの人を集めて池をらせることにしました。

いっぽう、娘の父親は商売に失敗しっぱいして何もかも失い、乞食こじきになっておりました。森の向こうで、金持ちの情深なさけぶかい女の人がたくさんの人をやとって池を掘らせていると聞いて、そこへ出かけて行きました。

娘は年老としおいた二人を見て、すぐにそれが自分の父母であることが分かりましたが、二人にはその女の人が自分の娘であることがわかりませんでした。娘は二人を家にむかえ入れると体をあらわせ、あたらしい着物きものせてごちそうしました。

二人は、これはきっと自分たちを池の工事のための人柱ひとばしらにささげるつもりなのだろうと思ってふるえていましたが、そこへ美しくかざった娘が出てきて、

「お父さん、お母さん、私はあなたがたの娘ですよ。これからはずっといっしょにらしましょうね」

と言って二人の手を取りました。二人はたいへんおどろき、喜びました。そして、末の娘を森に捨てたことをたいへん後悔こうかいしました。

再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子

※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。

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第14話『タールのかかし』

014

お百姓が畑にサトイモのたねイモを植えつけていると、そこヘ一匹のジャッカルがやってきてこう言いました。

「なんだい、そんなふうに植えてたら、らちがあかないよ。

その種イモはゆでてから土壺どつぼに入れてうめておかなくちゃね。そしたらすぐに大きくなるよ」

「こりゃよいことを聞いた」

お百姓はさっそくそのようにしておきました。

つぎの日、お百姓が畑に行ってみると、土壺の中の種イモは大きくなっているどころか、きれいさっぱりなくなっていました。

「これはジャッカルにしてやられた」

お百姓はすんだことはあきらめて、また種イモを植えなおしました。そして、こんどは黒いタールで人形を作って畑のわきに立たせておきました。

その晩、またジャッカルが畑に行くと、黒い人影ひとかげが立っています。ジャッカルはトコトコと近づいて、

「このやろう。見張みはりなんかに立ちやがって」と言って人形を足でけとばしました。するとけとばした足が人形にぴたっとくっついてはなれなくなりました。ジャッカルは、

「こいつはなさないか、おれにはもう三本の足としっぽがあるんだぞ」

と言って前足の一方でなぐりかかリました。するとその前足もぴたりとくっついてしまいました。ジャッカルは残りの足としっぽでなぐりにかかりましたが、みんなぴったりとくっついて身動きがとれなくなってしまいました。

つぎの朝ジャッカルを見つけたお百姓が、どうやって始末してやろうかと考えていると、ジャッカルがなさけない声でこう言いました。

黒砂糖くろさとうの壺に入れられたらもうたまらん」

これを聞いたお百姓は、さっそくジャッカルを家にかついでいって黒砂糖の壺の中に入れてふたをしてしまいました。

ところが、朝になってふたをあけてみると、ジャッカルは死んでいるどころか、黒砂糖を全部喰いつくしていい気にしています。お百姓がカンカンになって怒っていると、ジャッカルはこう言いました。

「このうえ、水の壺に入れられでもしたらひとたまりもない」

そこでお百姓はジャッカルを担いでいって、水壺の中につっこんでやりました。ところがです、よく朝ふたを開けてみるとジャッカルはすっかり水を飲みつくしてすずしい顔をしています。お百姓がどうしてくれようかと考えあぐねていると、ジャッカルは言いました。

「本当のことを言うと、おれは川につれていかれてそこで尻の穴に砂をつめられ、水につきおとされたらまちがいなく死ぬよ」

 お百姓はさっそくジャッカルを川へかついで行き、そこでジャッカルの尻のあなに砂をつめ込みました。つめ終わったころ、ジャッカルが言いました。

「ようし、ではよくねらいをつけて尻を押してくれよ」

お百姓はねらいをさだめ、ジャッカルの尻を押しました。するとジャッカルがいきなりおならをしたのでたまりません。き出た砂が目に入っておろおろしているお百姓をしりめに、ジャッカルは、

「あっはっは、お前さんなんかに殺されてたまるもんか」

と言って川をわたって逃げて行ってしまいました。

西ペンガル州 ビルブム県採話

再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子

※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。

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第13話『シカの友だち』

ある森に一匹のジャッカルがいました。その森にはもういい獲物が少なくなってしまったので、ある日、ジャッカルは他の森に足をのばすことにしました。

その森には、一頭の体格のいい立派なシカがいました。悪いことにかけては頭の回転がいいジャッカルは、シカを見るとまずはお近づきになろうと考えました。そしてシカのところへ行って、こう言いました。

「ねえきみ、ぼくと友だちにならないか。ぼくたちきっといい友だちになれると思うよ。きみが危ない目にあったときはぼくがきみを助け、ぼくが危ない目にあったときにはきみがぼくを助けるんだ」

気のいいシカは喜んでジャッカルと友だちになることにしました。

ずっとまえからシカと仲良しだったカラスは、これを聞いて鹿に耳うちしました。

「シカくん、素性の良く分らない者にそうやすやすと気を許しちゃいけないよ」

でもシカは気にしませんでした。

ある日、ジャッカルはシカにこう言いました。

「なんだ、きみはいつもこんな所でこんなまずそうな雑草ばかり食べているのかい。ぼくがひとついい所を教えてあげるよ」

ジャッカルはこう言ってシカをある百姓のナタネ畑に連れて行きました。シカは、わっさりと繁ったナタネの苗を食べてみました。それはそれは柔らかくてうまいものでした。シカはナタネの味が忘れられなくなって、それからは毎日、ジャッカルと連れだってその畑にかようようになりました。

ある日、これに気づいたお百姓は、畑にワナをしかけました。そしてシカはそのワナに足をとられてしまいました。ワナを外そうとあわてて足を引っばろうとしましたが、ワナは足に強くくいこんで離れません。シカはジャッカルに助けを求めました。

するとジャッカルは、

「そのワナは皮でできているんだろう。残念だけど、ぼくは今日は皮を口にしちゃいけない日なんだ。どうしたらいいだろう」

こう言ってとぼけています。

夕方になっても友だちのシカが帰ってこないので、カラスが心配して探しに行くと、シカが畑でワナにかかって苦しんでいるのを見つけました。カラスはシカのところへ舞い下りてこう言いました。

「いいかい、きみは明日の朝お百姓が来る前に、四つの足を空に向けてつっぱって転がっているんだ。そうしたらぼくが、きみの頭にとまって目をつっついて食べているまねをするからね」

翌朝、お百姓がこん棒を持ってやってきました。そして足を空に向けて転がって、カラスに目をつつかれている鹿を見つけました。

「何だこのシカの野郎!もう死んでいるとは手間いらずだ。殴るまでもない」

お百姓がこう言ながらシカの足をワナから外すと、シカはぱっと身を起こして森の中へ逃げて行きました。

シカにしてやられた百姓は、くやしがって持っていたこん棒を思いきりシカの方に向けて投げつけました。すると、こん棒は飛んでってヤブの中で隠れて、見ていたジャッカルに当たりました。

ジャッカルは、シカが百姓に殺されてその腹わたにありつけるのを今か今かと待っていたのに、とんだとばっちりをくらって自分が命を落してしまいました。

西ペンガル州 ビルブム県採話

再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子

※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。

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第12話『有難い土壺』

たいそう貧乏なバラモンがおりました。月も末になると、村のあちこちからピテ(米粉で作ったお餅)を作る杵の音が聞こえてきます。娘は近所からこぼれた米を拾い集めてきて、母にせがんでピテを作ってもらいました。できたのは六つだけ。その晩に親子三人で三つ食べ、翌日、バラモンは残りの三つを持って托鉢に出かけました。

村を出てどんどん行くと、川のほとりに大きなバニヤンの木がありました。バラモンはその枝に腰かけてピテの包みをほどき、大きな声でこう言いました。

「一つ食おうか二つ食おうか、三つとも食っちまおうか」

すると、ちょうど川へ水を飲みに来ていた親子三頭の虎がこれを聞いてびっくりし、あわてて木の下に駆け寄ると、こう言いました。

「どうか我々を食わないでください。その代わり、一生あなた様の食べ物には不自由のないようにしてさしあげますから…」

こう言って虎は、何でも欲しい物が好きなだけ出てくるという土壺をバラモンに渡して行ってしまいました。

バラモンは、あっけにとられてその土壺を持ったまましばらくつっ立っていましたが、ちょうど喉も渇いたし、ものはためし、土壺に、「水出てこい」と言ってみました。すると冷たい水が壺いっぱい出てきました。バラモンは土壺を抱え、大喜びで帰って行きました。

その途中に一軒のバラモンの家がありました。そこの主人は、昼飯どきに家の前を通りかかった者には、食事を御馳走しないでは通さないという奇特な人で、ちょうど通りかかったバラモンを見つけて家に招き入れました。

招かれたバラモンは、昼食は必ず体を洗ってからにしていましたので、持っていた土壺を大事そうに床に置き、「この壺には何も言わないで下さいよ」と言い残して池に行きました。

これを聞いた家の主人は「とすると、この壺はただの壺じゃなさそうだ」と思って小声で壺に「金を出せ」と言ってみました。すると、本当に出てきたのでびっくり、すばやく似たような土壺と取り替えてしまいました。

家に帰ったバラモンは妻子の前で得意になって「米出ろ、豆出ろ。」と言ってみせました。ところが壺からは米一粒だって出てきません。バラモンは二人に笑われ、がっかりしてまた托鉢に出かけました。

そしてまたバニヤンの木のところまでくると、ピテの包みをほどき、「一つ食おうか二つ食おうか、三つとも食っちまおうか」と言いました。

すると今度も虎が現れて、「あの壺ではまだ足りないのですか」と言います。バラモンが訳を話すと、虎は「ははあ、それは取り替えられたんだ。それならこれに取り返してもらいなさい」と言って一本の棒と一把の綱をくれました。

さっそく例の家に行って壺のことを言ってみますと、家の主人は、「人を泥棒呼ばわりするのか」と言って怒ってバラモンをたたき出そうとしました。

バラモンは棒と綱に「私の壺を取り返しておくれ」と言いました。すると、綱はするすると飛んでって家の主人を縛り上げ、棒はポカポカとたたきだしました。

これには家の主人も悲鳴をあげ、ほうほうのていでバラモンに壺を返しました。

それからバラモンはいうまでもなく、食べ物に困るどころか、大金持ちになったそうです。

西ペンガル州 ビルブム県採話

再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子

※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。

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第11話『三匹の魚』

ある村に、貧乏な機織りの夫婦がおりました。ある日、夫はとても魚が食べたくなって、河に釣りに行きました。ところが一日かけて、釣れた魚は小さいのが三匹だけでした。

夫は、「まあいいや、俺が二匹食って、女房には一匹やればいい」

こう考えて家に帰っていきました。

ところが夕食どきになってみると、夫の皿には魚が一匹しかのっていません。

怒った夫は女房に、「俺が二匹食おうと思っていたのに、あとの一匹はどうしたんだ」

と言いました。すると女房は言い返しました。

「まあ、わたしははじめっから二匹食べるつもりで料理していたのよ、ずるいわ」

「釣ってきたのは俺だぞ」

二人はこう言ってしばらくけんかをしていましたが、らちがあかないのでこう決めました。

「それじゃあ今晩はこのまま寝て、あしたの朝、起きて先に口をきいた方が負けで、より長く眠っている方が魚を二匹食べられる。ということにしよう」

あくる朝、二人はいつまでも眠ったふりをしてじっと横になっていました。陽が高くなっても機織りの家の戸が閉ざされたままなのを見て、近所の人が様子を見にきました。

ところがいくら名前を呼んでも返事がありません。戸をこじ開けてみると、機織りの夫婦はじっとベッドに横たわったまま、ウンともスンとも言いません。村人たちは、これはてっきり死んでしまったのだと思って、二人を焼場に運んでいくことにしました。

夕方になって焼き場に着くと村人は薪を山に積み、二人をその上にのせて下から火をつけました。炎が燃え上がると、まず垂れ下った女房の髪に火がつきました。女房はとび上がって、

「わたしは一匹だけでいいわ。アッチッチ」

と叫んで走っていきました。

すると夫の方が

「それじゃ俺は二匹食うぞ」

と言ってその後を追っていきました。

村人たちはこれを聞いてゾーッと恐くなりました。そしておたがいに身を寄せて、

「ありゃバケ物だ。誰か食われた者はいないか」

と言って頭数を数え始めました。けれどもみんな自分を数に入れずに数えたので、何回やっても一人足りません。

これはきっと一人喰われてしまったにちがいないと思ってあわてていると、そこへ一人の男が馬に乗って通りかかりました。みんなはもう一度その男に数え直してもらうことにしました。

その男はみんなを一列並ばせて、はしから一つずつげんこつを食らわせていきました。数はぴったりでした。

みんなが村に帰ってみると、機織りの夫婦は魚をおかずにして、うまそうに晩めしを食べていました。

西ペンガル州 メディニプル県採話

再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子

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第10話『虎とおかみさん』

ある村はずれの田んぼで、ひとり農夫が、牛にすきをつないで畑を耕していました。

そこへ、森から虎がでてきてこう言いました。

「おいこら、その牛をおれによこせ。神様がその牛を喰うようにといって、このおれをおつかわしになったんだ」

農夫は、虎を見ただけで恐くて身動きもできず、ただぶるぶるとふるえていました。ちょうどそんなところへ、お昼の弁当を持っておかみさんがやってきました。

事のしだいを聞いたおかみさんは、虎に向かってこう言いました。

「牛をやるのはいいけれど、そんなやせて張った雄牛なんかより、家にはもっとやわらかくておいしい牡牛がいるよ。今すぐにその牡牛を持ってきてやるから、ちょっと待ってておくれ」

こう言うや、おかみさんは走って家に帰り、すぐさま大きななたをひっ下げてもどってきました。そして虎をにらみつけると、鉈を振りあげて大声でこう言いました。

「家に帰ったら、私どもの神様が、虎を殺すようにとこの私をおつかわしになったのさ。このずうずうしい虎め、ぶった切ってやる」

虎はそのけんまくに肝をつぶして、すっとんで森へ逃げて帰りました。

でも、このままではどうしても虎の気がおさまりません。虎は、森の王者、ライオンのところに助けを求めに行きました。ライオンは虎の話を聞くと、怒ってこう言いました。

「何だと!たかが人間の女ごときにそんなでかい口をたたかせておけるものか。よし、このおれが行って目にものみせてくれる」

こうしてライオンと虎は連れだって農夫の家に出かけていきました。そして、ライオンと虎は家のまわりをしばらくぐるぐる回って中のようすをうかがっていました。

家の中にいたおかみさんにはこれが分かったので、ライオンと虎が庭に足を踏み入れるやいなや、大声でこう言ってやりました。

「まあまあ、これは虎さん、よくライオンをつかまえてこれたわね。これでやっと神様の命じたとおり、ライオンを殺すことができるわ。さあさあ、約束の褒美を受け取ってちょうだいな」

これを聞くや、ライオンは

「さては、この虎のやつにいっぱいくわされたな」と思って、大あわてで逃げていきました。そして、ライオンが逃げると同時に、虎もしっぽを巻いて逃げていってしまいました。

それからというもの、虎もライオンも二度とその家には近寄ろうとはしなかったそうです。

西ペンガル州 メディニプル県採話

再話・挿絵:西岡直樹

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第9話『行者の生贄』

子のない王様と妃のところに、ある日、一人の行者ぎょうじゃがやってきてこう言いました。

「おまえたちには跡継あとつぎがなくてさぞかし困っているであろう。わしがひとつ良い薬を進ぜよう。これを妃に飲ませれば、二子の子供ができるはずじゃ。だが、そのうちの一人をもらいにくるぞ」

行者の言葉どおり、妃は二子の王子を産みました。

それから十六年たったある日、突然行者が現れて、上の王子を連れ去ってしまいました。約束とはいえ、王様と妃は胸がつぶれるほど嘆き悲しみました。

王子は城を離れるとき、一本の木を庭に植えてこう言いのこしていきました。

「この木が青いうちは、私も元気でいるでしょう」

旅の途中、王子は犬の子とたかを拾いました。

森の奥の行者の庵に行くと、行者は王子に言いました。

「さあ、これからはお前はここで暮らすのじゃ。どこへ行ってもよいが、北の森だけは行くなよ。あそこは魔物が出る」

ところが、しばらくしたある日、王子は一頭の鹿を追って北の森に入ってしまいました。

そこにはだれもいない古い城があって、美しい娘が一人で賽振さいふりをして遊んでいました。娘は王子を見るとにっこりと笑って、賽振り勝負を持ちかけてきました。

王子は勝負に負けて、犬の子も鷹も失い、しまいには自分までその娘の召使めしつかいの身になってしまいました。実は、この美しい娘というのは魔物で、城の人間たちは、みんな食われてしまっていたのです。

城では、上の王子が植えていった木がだんだん枯れてきました。

これを見た下の王子はすぐさま城を飛び出し、行者の森へ向かいました。

森に来ると、下の王子も鹿の誘いにのって魔物の城に行き、やはり、美しい娘と賽振り勝負をすることになりました。ところがです、今度は三度とも王子が勝ってしまったのです。魔物の娘は仕方なく、犬の子と鷹と上の王子を下の王子に返すと、こう言って命ごいをしました。

「行者の秘密を教えてあげますから、どうか命ばかりは助けてください。あの行者は、カーリー女神に、生贄いけにえとして七人の子供を捧げる誓いを立てているのです。あなたがその七人目なのですよ。」

王子たちは、行者の留守に庵に行き、そっとうら木戸きどを開けてみました。するとそこには真っ赤な血をたたえた池があって、中に六つの骸骨がいこつが転がっていました。頭骸骨は王子たちを見ると、けたけたと笑って言いました。

「お前たちも今にこうなるぞ。あの行者を殺すんだ。そうしたら俺たちも生き返る」

そして二人に行者を殺す方法を教えました。

それから、上の王子は一人で庵に座り、行者の帰りを待ちました。

しばらくして帰ってきた行者は王子を見て喜び、さっそくカーリー女神の前に連れていきました。

そして王子にこう言いました。

「さあ、足もとにひざまずいておじぎをするのじゃ」

王子は骸骨に言われたとおり、

「私は王子だ。ひざまずいておじぎをしたことがない。ひとつやってみせてください」

と言いました。

行者が「こうやるのじゃ」と言ってかがんでみると、王子はそのときをのがさず刀をとって、行者の首をずっぱりと切り落としました。すると、池から「ワーッ」という歓声かんせいがわきおこって、六人の子供たちがはい上がってきました。

子供たちは王子をとりまいて何度もお礼を言い、それぞれの家に帰っていきました。

それから、二人の王子も、父母の待つ城へと帰っていったのでした。

西ペンガル州 チョッビス・ポルゴナ県採話

再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子

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第8話『ゴルムハという魔物』

サンタル族のある村に、ソマイという男の子がいました。

ある日、ソマイは狩りに出かけました。そして夢中になって鹿を追っているうちに、ゴルムハの住む森に入りこんでしまったのです。

その森に足を踏み入れるやいなや、たちまちソマイはゴルムハにつかまってしまいました。ソマイは二、三日煙でいぶされてから、穴の中に閉じ込められました。それからカレーごはんやイモのゆでたもの、野菜などけっこううまい物を食わされました。

このゴルムハというやつは、顔は馬のようで体は人間のよう。足は一本しかないけれど、すごく速く走ることができるのです。

ソマイは穴の中から、ゴルムハがつかまえた人間をどうやって喰うかを見てしまいました。獲物が肥えて元気になってくると、ゴルムハは獲物を丸ごと油で揚げて、家の戸口に吊るすのです。そして家を出入りするたびに、そいつにかぶりつくのです。

ソマイはある晩、ゴルムハがこう言っているのを聞きました。

「屋根のカボチャも熟れすぎた。そろそろかち割って喰うとするか」

つまりこの「カボチャ」というのはゴルムハの親のことで、もう老いぼれたから喰ってしまおうと言っているのです。自分の親まで喰うなんて…。ソマイは恐ろしくなって、なんとかそこから逃げ出そうと思いました。

ゴルムハは獲物が喰いどきになると、並べて駆けくらべをさせるのです。そして一番になったやつから喰っていくのです。

とうとうソマイも、その駆けくらべをする日がきました。初めは、ソマイはわざとゆっくり走って負け、なんとかその日は難をのがれました。

でも、ソマイも充分太って、みるからにうまそうになったので、ゴルムハも、そういつまでも放ってはおかないでしょう。次の日も、やはり駆けくらべをさせられました。

ソマイは、今度は全身の力を振りしぼって、田んぼめがけて駆けだしました。そして、バシャパシャと田んぼの中を渡って行きました。

ゴルムハはあわててソマイの後を追ってきましたが、一本足なので田んぼのぬかるみにずっぷりつきささったまま、身動きがとれません。

ソマイは一生懸命駆けて、命からがら恐ろしいゴルムハの森から逃げだすことができました。

再話・挿絵:西岡直樹

※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。