
サンタル族のある村に、ソマイという男の子がいました。
ある日、ソマイは狩りに出かけました。そして夢中になって鹿を追っているうちに、ゴルムハの住む森に入りこんでしまったのです。
その森に足を踏み入れるやいなや、たちまちソマイはゴルムハにつかまってしまいました。ソマイは二、三日煙でいぶされてから、穴の中に閉じ込められました。それからカレーごはんやイモのゆでたもの、野菜などけっこううまい物を食わされました。
このゴルムハというやつは、顔は馬のようで体は人間のよう。足は一本しかないけれど、すごく速く走ることができるのです。
ソマイは穴の中から、ゴルムハがつかまえた人間をどうやって喰うかを見てしまいました。獲物が肥えて元気になってくると、ゴルムハは獲物を丸ごと油で揚げて、家の戸口に吊るすのです。そして家を出入りするたびに、そいつにかぶりつくのです。
ソマイはある晩、ゴルムハがこう言っているのを聞きました。
「屋根のカボチャも熟れすぎた。そろそろかち割って喰うとするか」
つまりこの「カボチャ」というのはゴルムハの親のことで、もう老いぼれたから喰ってしまおうと言っているのです。自分の親まで喰うなんて…。ソマイは恐ろしくなって、なんとかそこから逃げ出そうと思いました。
ゴルムハは獲物が喰いどきになると、並べて駆けくらべをさせるのです。そして一番になったやつから喰っていくのです。
とうとうソマイも、その駆けくらべをする日がきました。初めは、ソマイはわざとゆっくり走って負け、なんとかその日は難をのがれました。
でも、ソマイも充分太って、みるからにうまそうになったので、ゴルムハも、そういつまでも放ってはおかないでしょう。次の日も、やはり駆けくらべをさせられました。
ソマイは、今度は全身の力を振りしぼって、田んぼめがけて駆けだしました。そして、バシャパシャと田んぼの中を渡って行きました。
ゴルムハはあわててソマイの後を追ってきましたが、一本足なので田んぼのぬかるみにずっぷりつきささったまま、身動きがとれません。
ソマイは一生懸命駆けて、命からがら恐ろしいゴルムハの森から逃げだすことができました。
再話・挿絵:西岡直樹
※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。