
子のない王様と妃のところに、ある日、一人の行者がやってきてこう言いました。
「おまえたちには跡継ぎがなくてさぞかし困っているであろう。わしがひとつ良い薬を進ぜよう。これを妃に飲ませれば、二子の子供ができるはずじゃ。だが、そのうちの一人をもらいにくるぞ」
行者の言葉どおり、妃は二子の王子を産みました。
それから十六年たったある日、突然行者が現れて、上の王子を連れ去ってしまいました。約束とはいえ、王様と妃は胸がつぶれるほど嘆き悲しみました。
王子は城を離れるとき、一本の木を庭に植えてこう言いのこしていきました。
「この木が青いうちは、私も元気でいるでしょう」
旅の途中、王子は犬の子と鷹を拾いました。
森の奥の行者の庵に行くと、行者は王子に言いました。
「さあ、これからはお前はここで暮らすのじゃ。どこへ行ってもよいが、北の森だけは行くなよ。あそこは魔物が出る」
ところが、しばらくしたある日、王子は一頭の鹿を追って北の森に入ってしまいました。
そこにはだれもいない古い城があって、美しい娘が一人で賽振りをして遊んでいました。娘は王子を見るとにっこりと笑って、賽振り勝負を持ちかけてきました。
王子は勝負に負けて、犬の子も鷹も失い、しまいには自分までその娘の召使いの身になってしまいました。実は、この美しい娘というのは魔物で、城の人間たちは、みんな食われてしまっていたのです。
城では、上の王子が植えていった木がだんだん枯れてきました。
これを見た下の王子はすぐさま城を飛び出し、行者の森へ向かいました。
森に来ると、下の王子も鹿の誘いにのって魔物の城に行き、やはり、美しい娘と賽振り勝負をすることになりました。ところがです、今度は三度とも王子が勝ってしまったのです。魔物の娘は仕方なく、犬の子と鷹と上の王子を下の王子に返すと、こう言って命ごいをしました。
「行者の秘密を教えてあげますから、どうか命ばかりは助けてください。あの行者は、カーリー女神に、生贄として七人の子供を捧げる誓いを立てているのです。あなたがその七人目なのですよ。」
王子たちは、行者の留守に庵に行き、そっと裏木戸を開けてみました。するとそこには真っ赤な血をたたえた池があって、中に六つの頭骸骨が転がっていました。頭骸骨は王子たちを見ると、けたけたと笑って言いました。
「お前たちも今にこうなるぞ。あの行者を殺すんだ。そうしたら俺たちも生き返る」
そして二人に行者を殺す方法を教えました。
それから、上の王子は一人で庵に座り、行者の帰りを待ちました。
しばらくして帰ってきた行者は王子を見て喜び、さっそくカーリー女神の前に連れていきました。
そして王子にこう言いました。
「さあ、足もとにひざまずいておじぎをするのじゃ」
王子は骸骨に言われたとおり、
「私は王子だ。ひざまずいておじぎをしたことがない。ひとつやってみせてください」
と言いました。
行者が「こうやるのじゃ」と言ってかがんでみると、王子はそのときをのがさず刀をとって、行者の首をずっぱりと切り落としました。すると、池から「ワーッ」という歓声がわきおこって、六人の子供たちがはい上がってきました。
子供たちは王子をとりまいて何度もお礼を言い、それぞれの家に帰っていきました。
それから、二人の王子も、父母の待つ城へと帰っていったのでした。
西ペンガル州 チョッビス・ポルゴナ県採話
再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子
※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。
