
ジョイシュト月(5〜6月)には、農夫は田に出てモミ播きをするものです。
さて、あるところに一人の農夫がいました。彼も例に倣ってモミを播こうと、大きな南京袋にモミをいっぱい詰めて田にやってきていました。
その田からそう遠くないところに森があって、そこに一頭の虎が住んでいました。
ある日、その国の王様が森に狩にやってきました。大勢の家来たちが弓矢や銃を持ってやってきましたが、鹿どころか鳥一羽獲れないので、王様たちは銃を二、三発空うちしてから帰り仕度を始めました。ところが、この銃声を聞いて、虎はふるえ上がってその森から逃げ出していきました。どんどん逃げて、モミ蒔きをしている農夫のところまでやってくると、虎は農夫に向かって言いました。
「おーい、お百姓、窮地の友よ。俺はお前を喰ったりしないからどうか俺を助けてくれ」
百姓がどうしたらいいものかとまどっていると、虎は
「そのモミの入った袋を空にしてその中にオレを入れてくれ」と言います。
優しい農夫は、袋を空けてその中に虎を入れてやり、袋の口を縛っておきました。そうしてしばらくすると、王様の一行はみんないなくなって静かになりました。
「さぁ、もう誰もいなくなったぞ」
農夫がこう言って袋の口をほどいてやると、虎は袋からはい出し、体をふるってモミを落すと、農夫に向かってこう言いました。
「さてお前を喰ってやろう。俺はこの一週間獲物にありついてないんだ。こんないい獲物を前にして喰わないという手はないからな」
これを聞いてあわてた農夫は
「そんな不条理が通ってたまるもんか。ちゃんと見ていた証人がいるぞ」
と言って近くにあったバニヤンの木のところに行きました。そしてバニヤンの木に、虎がしようとしている事の良し悪しを問うと、バニヤンの木は何も言わずに葉っぱをみんな落としてしまいました。
困った農夫がほかに証人をさがしていると、そこへ一匹のジャッカルが通りかかりました。農夫がジャッカルを呼びとめて、事の次第を説明すると、ジャッカルは
「あれ、虎のおじさんだ。これは恐い」
こうつぶやいて、少し離れたところから言いました。
「あんたは虎を助けてやったと言うけれど、一体どうやって助けたんだね。私に分るようにもう一度やって見せてくれないか」
そこで農夫がモミの袋を持ってくると、虎は袋の中にもぐり込んでみせました。
ジャッカルはすかさず言いました。
「さぁ袋の口を固く縛るんだ」
そこで農夫が袋の口を縛ると、ジャッカルはすかさずこう言いました。
「鋤の柄の棒で思いっきりぶってやれ」
これを聞いた虎はあわてて農夫に許しを乞いましたが、今度ばかりは農夫もそんなことには耳をかしません。虎はしこたまぶたれてとうとう命を落してしまいました。
西ベンガル州・ビルブム県採話
再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子
※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。










