
ある村に、貧乏な機織りの夫婦がおりました。ある日、夫はとても魚が食べたくなって、河に釣りに行きました。ところが一日かけて、釣れた魚は小さいのが三匹だけでした。
夫は、「まあいいや、俺が二匹食って、女房には一匹やればいい」
こう考えて家に帰っていきました。
ところが夕食どきになってみると、夫の皿には魚が一匹しかのっていません。
怒った夫は女房に、「俺が二匹食おうと思っていたのに、あとの一匹はどうしたんだ」
と言いました。すると女房は言い返しました。
「まあ、わたしははじめっから二匹食べるつもりで料理していたのよ、ずるいわ」
「釣ってきたのは俺だぞ」
二人はこう言ってしばらくけんかをしていましたが、らちがあかないのでこう決めました。
「それじゃあ今晩はこのまま寝て、あしたの朝、起きて先に口をきいた方が負けで、より長く眠っている方が魚を二匹食べられる。ということにしよう」
あくる朝、二人はいつまでも眠ったふりをしてじっと横になっていました。陽が高くなっても機織りの家の戸が閉ざされたままなのを見て、近所の人が様子を見にきました。
ところがいくら名前を呼んでも返事がありません。戸をこじ開けてみると、機織りの夫婦はじっとベッドに横たわったまま、ウンともスンとも言いません。村人たちは、これはてっきり死んでしまったのだと思って、二人を焼場に運んでいくことにしました。
夕方になって焼き場に着くと村人は薪を山に積み、二人をその上にのせて下から火をつけました。炎が燃え上がると、まず垂れ下った女房の髪に火がつきました。女房はとび上がって、
「わたしは一匹だけでいいわ。アッチッチ」
と叫んで走っていきました。
すると夫の方が
「それじゃ俺は二匹食うぞ」
と言ってその後を追っていきました。
村人たちはこれを聞いてゾーッと恐くなりました。そしておたがいに身を寄せて、
「ありゃバケ物だ。誰か食われた者はいないか」
と言って頭数を数え始めました。けれどもみんな自分を数に入れずに数えたので、何回やっても一人足りません。
これはきっと一人喰われてしまったにちがいないと思ってあわてていると、そこへ一人の男が馬に乗って通りかかりました。みんなはもう一度その男に数え直してもらうことにしました。
その男はみんなを一列並ばせて、はしから一つずつげんこつを食らわせていきました。数はぴったりでした。
みんなが村に帰ってみると、機織りの夫婦は魚をおかずにして、うまそうに晩めしを食べていました。
西ペンガル州 メディニプル県採話
再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子
※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。