
たいそう貧乏なバラモンがおりました。月も末になると、村のあちこちからピテ(米粉で作ったお餅)を作る杵の音が聞こえてきます。娘は近所からこぼれた米を拾い集めてきて、母にせがんでピテを作ってもらいました。できたのは六つだけ。その晩に親子三人で三つ食べ、翌日、バラモンは残りの三つを持って托鉢に出かけました。
村を出てどんどん行くと、川のほとりに大きなバニヤンの木がありました。バラモンはその枝に腰かけてピテの包みをほどき、大きな声でこう言いました。
「一つ食おうか二つ食おうか、三つとも食っちまおうか」
すると、ちょうど川へ水を飲みに来ていた親子三頭の虎がこれを聞いてびっくりし、あわてて木の下に駆け寄ると、こう言いました。
「どうか我々を食わないでください。その代わり、一生あなた様の食べ物には不自由のないようにしてさしあげますから…」
こう言って虎は、何でも欲しい物が好きなだけ出てくるという土壺をバラモンに渡して行ってしまいました。
バラモンは、あっけにとられてその土壺を持ったまましばらくつっ立っていましたが、ちょうど喉も渇いたし、ものはためし、土壺に、「水出てこい」と言ってみました。すると冷たい水が壺いっぱい出てきました。バラモンは土壺を抱え、大喜びで帰って行きました。
その途中に一軒のバラモンの家がありました。そこの主人は、昼飯どきに家の前を通りかかった者には、食事を御馳走しないでは通さないという奇特な人で、ちょうど通りかかったバラモンを見つけて家に招き入れました。
招かれたバラモンは、昼食は必ず体を洗ってからにしていましたので、持っていた土壺を大事そうに床に置き、「この壺には何も言わないで下さいよ」と言い残して池に行きました。
これを聞いた家の主人は「とすると、この壺はただの壺じゃなさそうだ」と思って小声で壺に「金を出せ」と言ってみました。すると、本当に出てきたのでびっくり、すばやく似たような土壺と取り替えてしまいました。
家に帰ったバラモンは妻子の前で得意になって「米出ろ、豆出ろ。」と言ってみせました。ところが壺からは米一粒だって出てきません。バラモンは二人に笑われ、がっかりしてまた托鉢に出かけました。
そしてまたバニヤンの木のところまでくると、ピテの包みをほどき、「一つ食おうか二つ食おうか、三つとも食っちまおうか」と言いました。
すると今度も虎が現れて、「あの壺ではまだ足りないのですか」と言います。バラモンが訳を話すと、虎は「ははあ、それは取り替えられたんだ。それならこれに取り返してもらいなさい」と言って一本の棒と一把の綱をくれました。
さっそく例の家に行って壺のことを言ってみますと、家の主人は、「人を泥棒呼ばわりするのか」と言って怒ってバラモンをたたき出そうとしました。
バラモンは棒と綱に「私の壺を取り返しておくれ」と言いました。すると、綱はするすると飛んでって家の主人を縛り上げ、棒はポカポカとたたきだしました。
これには家の主人も悲鳴をあげ、ほうほうのていでバラモンに壺を返しました。
それからバラモンはいうまでもなく、食べ物に困るどころか、大金持ちになったそうです。
西ペンガル州 ピルプム県採話
再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子
※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。