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墨染め

墨染め

和墨を濃くといて何度かムラなく染めます。染めるのはさほど難しくはないのですが、洗うのが大変なのです。布を傷めないように思いやりながら、もうこれ以上落ちないというところまで、根気良く洗います。しかし何度も何度も繰り返し洗っても色落ちが止まらず、あきらめようかと思い、嫌になってしまう頃、不思議にピタッと色落ちが止まる時が来るのです。干して仕上げると墨染のタッサーシルクは、布そのものの美しさを保ちながら、控え目な鈍色(にびいろ)に輝きます。これが染めの三昧なのでしょうか。

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オリッサの村 -強撚り糸を探して-

強撚糸を紡ぐ
強撚糸を紡ぐ
オリッサの強撚糸
オリッサの強撚糸
2010年の制作は、オリッサから始まりました。今年の魅力的な素材を織るために、以前少しだけ手に入れたタッサーの荒い外側部分を強く捻った糸を求めてオリッサに来ました。 しかし、これが寒くてきつい旅でになりました。インドの冬を甘く見ていたのかもしれません。暖房器具の整っていないインドの冬は、服で加減するか、我慢するしかなく、二等寝台と乗り合いバスの二晩夜行の旅は前もって知っていれば行かなかったかもしれません。それでもこの粗野な糸の魅力には、たとえ困難を知っていても決行させてしまう力がありました。主人は二日続きの厳寒の夜の旅に体調をくずし、着いた村の日向でとうとう寝込んでしまいました。村の人々が暖かく、優しかったのは何より嬉しかったです。その後近くの安宿で休養をとり、今度は昼の列車でコルカタに帰ってきました。
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藍の生葉染め

藍の生葉染め昨年の春に芽出しをしたリュウキュウ藍はこの冬背丈より大きく育ちました。花が咲き種もつけています。葉が余りバサバサとするので刈リ払い、その葉っぱで3枚のタッサースカーフを染めてみました。オリジナル織りのタッサーシルクスカーフが、とても品のあるターコイズブルーに染まりました。

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えんじ綿(臙脂綿)

臙脂綿
臙脂綿(非売品)

昔から日本に運ばれていたラックカイガラムシの染料
この日の丸のように見える赤い物は、昔画材屋や染料屋で売られていたえんじ綿です。江戸時代に、南蛮船がインドまたは東南アジアから運んできたもので、戦前まで普通に流通していたようです。日本画のえんじ色を描くには重要な天然の染料でした。また、加賀友禅の挿し色にはなくてはならない色でした。小さくちぎって絵皿に入れ、水またはぬるま湯を加えると色が出てきます。画用には、膠等のメディウムはいらず、加える場合でもほんの微量で十分です。濃く出して臙脂色。薄く出して青味のあるピンク。染めの場合は、布をあまりよく洗うと色落ちしますが、絵の場合は、18世紀のインド細密画を見る限り変色もなく安定していると思います。日本にはないこの独特なラックカイガラムシのえんじ色は、どんな他の色にも代えがたい魅力的で、貴重な色だったことでしょう。

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ベンガルのカンタ(刺し子)

ウールにカンタ
ウールにカンタ

カンタはもともとインドベンガル地方の家庭の女性の中で、日常の楽しみ、豊かさとして培われ、大切にされたものです。それは、まるで糸と針という簡単な道具で描く女性たちの芸術のようにで、色もモチーフも多彩、自由でおおらかです。日常のいろいろな規制があっても、あるいはそれがあればあるほど布の上で女性たちは自由に楽しみます。女性たちが、いかにその中で活きいきと集中するか、その楽しみが見るものにも伝わるのです。
多くの時間を費やした後できあがったこの布は、丈夫で何年も愛用され、修復されながらもボロボロになるまで使い果たされます。優れたものが現在にあまり残されていないのもそれゆえのように思われます。刺繍に使われる糸は、本来サリーのボーダーにある色糸を抜いて刺繍糸にしていましたが、今ではどんな奥地の田舎でも色とりどりの刺繍糸が塩やスパイスと共に雑貨屋で売られています。
*カンタについて以前書いたものはこちら

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インドアカネ

茜染めブラウス
茜染めブラウス

アカネ科 Rubia cordifolia L., Rubia manjista.
茜染料は、インダス文明、紀元前二千年の頃にはすでに糸を染める染料として用いられていたと言われています。茜染めの染方法は西北部インド周辺では古代から伝承され、その色は繊維がなくなるまで変わらないと言われるほど技術が高かったようです。この地方で用いられていた茜は主に二種類あると思われ、ヒマラヤ山麓の丘陵地帯、チョタナーグプルやスリランカの山岳地に自生する四葉のインドアカネ、またアフガニスタン、イランで採れる六葉のセイウヨウアカネが両方使われていたのではないかと思われます。
インドアカネは、根は太いひげ状をしていて、現在でも薬用として売られています。アナンダ工房は、この乾燥したインドアカネを用いています。染めるたびに色合いが異なりますが、毎回より美しい色が染まるよう苦心しています。美しい色を見ることはこの上なく幸せです。(図=直樹 文=由利子)

インドアカネ
インドアカネ

 

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アカネ染め

茜染めの様子
茜染めの様子
インドの工房でインド茜を染めています。どんな色が出るかドキドキ。染めている途中で、真っ赤なトンボが木の枝に止まって、応援してくれました。まずは強撚糸のスカーフと、ブラウス用の布地を染めてみました。水の具合、布地との相性、まだまだ改良の余地ありですが、毎回改良を重ねて、もっともっとよい色が染まるように頑張っています。今回の色は、黄色味が多いですが、秋らしいオレンジでしっかりと濃い色が染まりました。
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タッサーシルクと極細綿の強撚糸

丸くなった強撚糸のかせ
丸くなった強撚糸のかせ
マリモのように丸まる強撚糸
150番手の手紡ぎ綿糸を紡ぐ際に、極端に糸をかせから外すと、縮んでマリモのように強くねじりをかけて紡いでもらいました。 一本どり,または二本どりにして捻りをかけた丸くなります。その糸をタッサーを経糸として平織りにし、水通しすると、とても面白いしわの布が出来上がりました。
強撚糸の布
強撚糸の布
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蓮染め

蓮染めタッサージャケット
蓮染めタッサージャケット
インドの工房の向かいには、カマバアカシヤに囲まれた静寂な池があり、そこには蓮が生い茂っています。冬にはカモやカワセミがやって来ます。工房ではこの池を借りて稚魚を放ち、蓮を大切にしています。以前はグウシを紡ぐことも可能でしたが、この頃は、なかなか紡いでもらえなくなりました。数年前から春から秋に、この葉で蓮染をしています。タッサーや綿糸が、深みのある黄色から緑に染まります。春、秋、晩秋とそれぞれ発色が違うのも面白いです。堅牢でとても上品な色味に染まります。もちろん夏には蓮の花が池いっぱいに咲きこれを見るのがいちばん楽しみです。
インドの工房の蓮池
インドの工房の蓮池
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ラックカイガラムシ

ラックカイガラムシLaccifer lacca【臙脂虫】ラック, Lack, 現地語=ラー、ラークシャー、ラッカ、クリムダナ
ラックはハナモツヤクノキ、イヌナツメなどに寄生するカイガラムシが分泌する樹脂状の物質です。虫自らが身を守るために分泌したその硬い殻は赤い色素を含んでいて、煮出すと色素が溶け出て、後に琥珀色の樹脂シェラックが残ります。 かつてイギリス(東インド会社)に支配されていた東インドでは、このラックが大量に生産されていました。染料としてよりもむしろシェラック樹脂を採るために、ハナモツヤクノキの植林、ラックカイガラムシの繁殖、養殖、採集、集積、ラックの精製、シェラックの製品までがすべて現地で行われていました。 シェラックは、イギリスにとってかつては重要な交易品目の一つでした。大航海時代には大きな船の船舶の塗料として、またあのイギリス王室の威厳ある臙脂色の馬車や家具もこの塗料で塗られていました。またヨーロッパ伝統の封印wax sealにはスティック状のシェラックスティックが用いられていて、インドでは今でも郵便小包や書留などの封印に同様のsealing wax(ガラ)が使われています。