
ある国に王様がいました。その王様の頭には二本の角が生えていたのですが、そのことは誰にもないしょにしていました。
ところがある日、王様の髪を刈りにきた床屋に角のことを知られてしまいました。王様は言いました。
「このことは誰にも言うなよ。言ったらお前をヤリで突いてやるからな」
床屋は、しばらくは誰にも言わずに黙っていましたが、そのうち腹に何かがつまっているような気がして、どうしても言わずにはいられなくなりました。そこで床屋は誰もいない荒地のまんなかに行って、そこにあったニムの木に、「お前だけに教えてやるけど、王様の頭にゃ角が二本生えてるんだよ。」と言いました。そしてなんとなくすっきりした気持ちで帰って行きました。
それから床屋は王様の角のことはすっかり忘れてしまいました。そして、荒地のニムの木は王様の楽師に切られ、笛と太鼓の胴とドラをたたく棒にされてしまいました。
しばらくたったある日、お姫様の結婚式がありました。楽師たちはにぎやかに笛や太鼓を打ち鳴らして行列について行くことになりました。
ところが不思議、楽師が笛を吹くと笛は
「王様の頭にゃ、角がピーヒョロ二本ある」と鳴りました。ドラをたたくと 、
「ダレガイッタ、ダレガイッタ」と鳴り、太鼓を打つと、
「トコヤ、トコヤ」と鳴りました。
王様はこれを聞いて驚き、さっそく床屋を呼んで秘密のことを問いただすと、床屋は答えました。
「わたしは誰にも王様の角のことを言ったりしていません。ただ荒地の生えていたニムの木に言っただけです。」
これを聞いた王様は
「ニムの木に言ったのではしょうがない、どんなにかくしても、秘密というものはとんだところからもれてしまうものじゃ・・・」
こう言って、床屋をヤリ突きの刑にはしないで許してやりました。
再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子
※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。