
あるバラモンに一人の息子がありました。その息子のところに五人の嫁が来ました。けちんぼうのバラモンは女房に言いました。
「五人も嫁がきてたまったもんじゃない。いいか、嫁たちにはめし粒一つだってやるなよ。嫁たちにはここから出てってもらおう」
五人の嫁たちは一日中めしも食べずにうろうろしていましたが、いつも水を汲みに行く井戸ばたにマカルのつるがあったので、水を汲みに行ってはマカルの実をとって食べていました。バラモンは嫁たちがめしも食わずに平気にしているのを見て、こっそり後をつけてみました。すると嫁たちはマカルの実をとってうまそうに食べています。
「なるほど、こういう訳だったのか」
嫁たちが帰ってから、バラモンはマカルのつるを切りにかかりました。すると、マカルのつるが言いました。
「バラモンさん、私がいつあなたに悪いことをしましたか?」
そこでバラモンは、
「ようし、お前がそう言うならおまえを切るのはやめてやろう。だが今日からお前の実の中身が猫の糞になるようにしてやる」
と言って、木に呪いをかけました。その日からマカルの実の中は猫の糞のようになってしまいました。
次の日、嫁たちが水汲みにきてマカルの実を食べようとすると、中が猫の糞のようになっているのを見て、嫁たちは
「もうここにはいられない」と言って、みんなそろって、足の向くまま家を出て行ってしまいました。
深い森の中をどんどん行くと、大きな家敷がありました。中にはだれもいません。入ってみると米でも粉でも何でもそろっているし、お金もたくさんあります。
五人は米の粉をついてピテ(おだんごのようなお食べ物)を作りました。そして久しぶりに腹のふくらむまで食べていました。すると、そこへ大きなヒヒが帰ってきました。その家はヒヒの家だったのです。五人があわてて米壺の中に隠れてようすを見ていると、ヒヒはヌカをいっぱい食ってから、大口を開けてグーグー眠りはじめてしまいました。
嫁たちは面白がって、ピテの残りをヒヒの口めがけてポンポンと投げ込んでやりました。するとヒヒは口の中に何かくちゃくちゃするものがあるのに気が付いて目を覚まし
「何じゃ、これは。俺はいつもヌカしか喰わんのに、今日は勝手に口のやつ、こんなうまい物を喰いやがって。ひとつ口のやつにおしおきをしてやらにゃいかん」と言って、鍛冶屋のところへ行きました。
「おい鍛冶屋、ひとつ頼みがあるんだ。おれのこの口のやつが勝手に妙なものを喰いやがる。この口にひとつおしおきをしてやっとくれ」と言います。
鍛冶屋が「どうすりゃいいんだい?」と聞くと、ヒヒは、
「いいから好きなようにやってくれ」と言います。
そこで鍛冶屋は真っ赤に焼いた犂をヒヒの口につっこんでやりました。ヒヒは、
「もっとやってやれ、もっとやってやれ」と言いながら死んでしまいました。
五人の嫁は主のいなくなった家で幸せに暮らしたそうです。
嫁が出て行ったバラモンの家は、その後、没落したそうです。
マカルの実は、このときから中身が猫の糞のようになって、食べられなくなったそうです。
西ペンガル州 チョッビス・ポルゴナ県採話
再話・挿絵:西岡直樹
– このお話について –
後半のヒヒの話はギャグが効いていて、聞き手の子どもたちは大笑い。ちなみに、マカルという実はカラスウリに似て和名をオオカラスウリ(学名Trichosanthes tricuspidata)といいます。実は球形で熟すと真っ赤になり、薬として利用されます。西岡直樹
※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。