
ある村に、大変貧乏な漁夫がいました。漁夫は、わずかばかりの魚をとって、細々と暮らしていました。
ある日、漁夫がいつものように川で網を打っていると、いつになく重い手ごたえがありました。これは大きな魚に違いないと思って引き上げてみると、それは古びた土壺でした。
漁夫は「まあ、土壺でもいい。売ればいくらかの金にはなるだろう」
と思って手に取ってみると、壺にはかたく蓋がしてありました。それをこじ開けようとしたとたん、壺の口からフシュフシュと煙が出てきました。
驚いた漁夫が少し身を引いて見ていると、煙の中から一人の巨人が現れ
「さあ、おまえを喰ってやるぞ」と言いました。
漁夫はあわてて言いました。
「わたしがあんたに何をしたというんだ。壺から出してやったこのわたしを、あんたは喰うというのか?」
すると巨人は、天が割れるような大声で笑って言いました。
「わはは、壺から出してくれと頼んだ覚えはない。つべこべ言うな」
怖くなった漁夫は、どうしたらよいものか考えて、こう言いました。
「わたしを喰うのはいい。でも、あんたのように大きな男が、どうやってあの小さな壺に入っていたのか、頭の悪い私にはどうしても信じられない。ひとつやって見せておくれ」
巨人はわははっと笑って
「それでは見ていろ」と言うと、すうっと小さくなって、再び壺の中に入ってみせました。
漁夫はそのときを逃さず、すぐさま壺にかけより、きっちりと蓋をしてしまいました。
「どうだ、ざまあみろ」
漁夫が笑ってこう言うと、壺の中から巨人のいかにも哀れな声が聞こえてきました。
「どうかここから出しておくれ、出してくれればお前にたくさんの宝物をやろう。決しておまえをだましたりはしない」
漁夫はもともと心根のやさしい男だったので、巨人を哀れに思い、もう一度蓋を開けてやりました。
巨人は、煙とともに出てくると、今度は漁夫にたくさんの宝物を渡して、すーっと姿を消してしまいました。
こうして漁夫は、その後何不自由ない暮らしを手に入れたということです。
西ペンガル州 チョッビス・ポルゴナ県採話
再話:西岡直樹
挿絵:西岡由利子
※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。