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第10話『虎とおかみさん』

ある村はずれの田んぼで、ひとり農夫が、牛にすきをつないで畑を耕していました。

そこへ、森から虎がでてきてこう言いました。

「おいこら、その牛をおれによこせ。神様がその牛を喰うようにといって、このおれをおつかわしになったんだ」

農夫は、虎を見ただけで恐くて身動きもできず、ただぶるぶるとふるえていました。ちょうどそんなところへ、お昼の弁当を持っておかみさんがやってきました。

事のしだいを聞いたおかみさんは、虎に向かってこう言いました。

「牛をやるのはいいけれど、そんなやせて張った雄牛なんかより、家にはもっとやわらかくておいしい牡牛がいるよ。今すぐにその牡牛を持ってきてやるから、ちょっと待ってておくれ」

こう言うや、おかみさんは走って家に帰り、すぐさま大きななたをひっ下げてもどってきました。そして虎をにらみつけると、鉈を振りあげて大声でこう言いました。

「家に帰ったら、私どもの神様が、虎を殺すようにとこの私をおつかわしになったのさ。このずうずうしい虎め、ぶった切ってやる」

虎はそのけんまくに肝をつぶして、すっとんで森へ逃げて帰りました。

でも、このままではどうしても虎の気がおさまりません。虎は、森の王者、ライオンのところに助けを求めに行きました。ライオンは虎の話を聞くと、怒ってこう言いました。

「何だと!たかが人間の女ごときにそんなでかい口をたたかせておけるものか。よし、このおれが行って目にものみせてくれる」

こうしてライオンと虎は連れだって農夫の家に出かけていきました。そして、ライオンと虎は家のまわりをしばらくぐるぐる回って中のようすをうかがっていました。

家の中にいたおかみさんにはこれが分かったので、ライオンと虎が庭に足を踏み入れるやいなや、大声でこう言ってやりました。

「まあまあ、これは虎さん、よくライオンをつかまえてこれたわね。これでやっと神様の命じたとおり、ライオンを殺すことができるわ。さあさあ、約束の褒美を受け取ってちょうだいな」

これを聞くや、ライオンは

「さては、この虎のやつにいっぱいくわされたな」と思って、大あわてで逃げていきました。そして、ライオンが逃げると同時に、虎もしっぽを巻いて逃げていってしまいました。

それからというもの、虎もライオンも二度とその家には近寄ろうとはしなかったそうです。

西ペンガル州 メディニプル県採話

再話・挿絵:西岡直樹

※本文は、東京ジューキ食品ダージリン会刊『天竺南蛮情報』の『インド民話シリーズ』に連載していた文章を編集・加筆したものです。