インドのベンガル地方にも柿はありました。直径4~5センチメートルの小さな柿で、全体がビロードのような茶色い毛でおおわれています。ベンガル地方では、ガーブと呼んでいました。子供たちが、熟れた実を食べたりしていましたが、渋くてあまり美味しいとはいえません。この柿には、ベンガルガキの和名があてられています。私たちの工房があるムルシダバードの古い城下町では、食べるよりは、渋い未熟の実から柿渋をつくって、魚網を丈夫にするために使われていましたが、今ではそれも、ナイロンの網の出現で、ほとんど使われなくなってしまいました。
私たちは、そのガーブの未熟果の柿渋をつかって、布を染めてみました。早く乾いていくところに染料が寄って、面白い濃淡ができ、また、タッサー(インド山繭)などでは、布になんともいえない光沢と張りが出ました。
カテゴリー: ブログ
タッサーシルク(インドヤママユ)
タッサーシルクは、お蚕さんのように、運ばれた葉を食べて、家の中で大きくなるのではなく、青空の下で木の枝に放し飼いにされる。自由な空気が、満喫できる分、鳥などについばまれる危険性も大きく、人が棒を持って、鳥追いの番をしていなければならない。わがままな幼虫である。
繭をつくるのは冬と雨季の二回。その糸は、インドの強烈な紫外線から幼虫を守るUVカットの効果を持っており、また高温湿潤な雨季にもむれないよう通気性の良い多穴質の構造になっている。
オリッサ州ションボルプル(サンバルプル)の絣 “コトキ”
オリッサ州の内陸の町サンバルプルを歩くと、絣のサリーをまとう女性の姿を良く見かける。特にコールと呼ばれる少数民族の姿は、粋である。艶やかな大柄もあれば、重厚で落ち着いた感じのものもある。サンバルプルの絣の独特な品の良さは、このコール族の美的センスが大きく影響しているのではないだろうか。
庶民の生活の中に今直生きている、伝統染織の根深さを思い知らされる。インドの絣の歴史は古く、5~6世紀頃に造られたであろうと言われているアジャンタ石窟の壁画の中には、絣ではないかと思われる腰巻を見ることができる。現在インドの絣で有名な産地は、グジャラート州のパタンとオリッサ州のサンバルプルがある。パタンの絣は絹の緻密な縦横がすりで、“パトラ”と呼ばれる。オリッサ州の絣は、主に木綿の横がすりで(縦横もある)、“コトキ”と呼ばれている。こちらは、大柄で大胆な庶民もの的な図柄から、緻密でデリケートな高級品まで様々だ。緻密なものは品が良く、インドの綿サリーとしてはベンガルのジャムダニとならんで、最高級と言えるだろう。
モスリン(極細手紡ぎ手織り綿)
モスリンは、日本では薄くて柔らかいウールとして知られ、メリンスとも呼ばれていました。しかし、辞書によれば、モスリンは-昔イラクのモスルで織られていたファインな木綿-と書かれていて、もともとは極細上質木綿をさしていたようです。インドでは、すでに仏が生きていた紀元前5世紀頃、この上なく細かく上質な木綿がカーシ(ベナレス)で生産されていたようです。15世紀末インド航路発見以降、インドのモスリンはキャリコとともに世界各地に運ばれ、絶賛されました。今日、150カウント以上の極細の手紡ぎ綿糸を密に手で織った布をモスリンと呼んでいますが、その織り技術は難しく、数少ない伝統職人によって細々と生産されています。その感触は機械織の薄い綿布とは確かに違って、この上なく緻密、滑らかで、まるでミルクのような感触です。
グウシ(藕糸織り)
沙羅双樹染め
沙羅双樹で染めた黄金の衣 釈迦が涅槃の時、その下に身を横たえたという沙羅双樹は、インドではごく普通に見られる木で、サンスクリット語でシャーラ、ヒンディー語でシャール、ベンガル語でシャルと呼ばれています。高さ20メートルを超す熱帯性の高木で、インドでは材を建築、家具に利用し、幹から採れる樹脂は、薫香として日々神前に焚かれています。日本の風土では育たないため、日本で沙羅双樹として植えられているのはたいていツバキ科のナツツバキで、この樹とは異なります。名のみ聞き知る本当の沙羅双樹で、タッサーシルクを染めてみると美しい黄金色に染めることができました。堅牢性にも優れた実用的な染色植物であるといえます。
沙羅双樹香
涅槃の時、釈迦がその下に身を横たえたという沙羅双樹は、インドではサンスクリット語でシャ-ラ、ヒンディ-語でシャール、ベンガル語でシャルと呼ばれるフタバガキ科の高木で、その幹から浸出する樹は焚くとよい匂いのする白煙を立ちのぼらせる。インドではそれをドゥニ―、(サルジャラサ)と称して祈りの儀式に用いる。それは古くに日本にも中国を通して白膠香の名で伝えられている。真の沙羅双樹は高さ20メートルを超す熱帯性の高木です。日本でシャラの別名で親しまれるナツツバキとは異なります。
アッサムの黄金の繭 – ムガ
ベンガルのカンタ(刺し子)
古くなったサリーや男性が腰に巻くドゥティを数枚合わせてちくちくと刺したものをベンガル語でカンタといいます。一昔まえまでは、どの家でも寝るときに敷くものや掛けるものはほとんどみなカンタでした。ふだん使うカンタは粗い目で刺されていて、模様もありませんが、客用や、娘が嫁ぎ先にもっていくようなカンタには布地全体がさざ波だつほど細かく刺されていてきれいな模様がほどこされています。こうした模様のあるカンタをノクシ・カンタ(飾りカンタ)と呼んでいます。また新しく生まれてきた赤ちゃんのために送られるカンタはシュシュニ・カンタと呼ばれ、赤ちゃんの幸福を願って夢のある愛らしい模様が施されています。このごろでは、インドの村の生活も忙しくなってきて、限りなく時間のかかるカンタを刺す女の人は少なくなってしまいました。アナンダ工房では、この伝統的なベンガルのカンタを私達が身近に楽しめる様アレンジしました。